ソルフェージュで体得できる音楽の基礎能力
音感の獲得
絶対音感とは
ピアノや歌、オーケストラや吹奏楽など、音楽的な音以外にも、クラクションやノックの音、スーツケースをゴロゴロと転がす音など、世にある音全てが「ドレミ」で聞こえる状態を「絶対音感がある」と言います。
楽器によっていろいろなドレミがありますが、ここで言う「ドレミ」は、ピアノのドレミを指します。
絶対音感を身につけるには、幼少期の訓練が不可欠だと言われています。
そしてこの絶対音感は言語習得に大きな威力を与えます。
外国語の学ぶときに、聴いただけで、音の高低差をハッキリ認識する事ができ、言葉の裏に含まれている打音(舌のなる音)や口の開け方を、発音記号を見なくとも正確に再現する事ができるようになります。
相対音感とは
絶対音感が、どのような音も固定のドレミで聞こえることに対し、相対音感はある音を基準に「その音より高いか、低いか」を感じ取るものです。
もちろん、ただ単に高低を聞き分けるだけではなく、音と音の幅を聞き取り、その場その場の「ドレミ」で聞くことができるのです。
例えば、絶対音感の持ち主には「ソ・ラ・シ・ド・レ・ミ・ファ♯・ソ」と聞こえる音階が、相対音感の持ち主には「ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ・ド」と聞こえることがあります。
絶対音感とは違い、相対音感はあとから身につけることができる音感です。
絶対音感のメリットとデメリット
絶対音感のメリット
- 正確な音程で歌うことができる
- 初見が得意
- 譜読みが早い
- 聞いた音(音楽)を再現することができる
- 現代曲のように明確な調性(○長調・○短調)がない曲でも、自分の音を基準として演奏できる
絶対音感のデメリット
- 自分の音程と、周囲の音程が少し違うだけでも気持ち悪く感じる
- 少しだけ音程を上げて演奏する、など、自分が持っている音感と違うことに対応できない
- 邦楽器等、音程の幅がある楽器と合わせることが難しい
- 移調楽器(ピアノとドレミが違う楽器)を演奏する際に、違和感を感じてしまう
相対音感のメリットとデメリット
相対音感のメリット
- 周囲に合わせて、音程を取ることができる
- 基準となる音があれば、そこから正確な音の幅を取れる
- 調によって変わる音の役割を、自然に認識できる
- 移調楽器を難なく演奏できる
相対音感のデメリット
- 明確に基準となる音がない場合、音を把握できない
絶対音感、相対音感どっちがいいの?
小さい頃に訓練をすることでしか得ることができない絶対音感。
とても素晴らしい特殊技能に思えますが、絶対音感の持ち主は皆一様に「デメリットの方が多い」と言います。
それはなぜでしょうか。
「絶対」と名がつくように、固定度が高く、応用や融通が利きづらいのです。
音楽を演奏する場合、人と合わせる場面が多々ありますが、絶対音感を持っていることで、「自分の出したい音(音程)はこれ」と、一定の音しか出すことができず、「心地良く感じるように合わせる」ということが難しくなるのです。
また、ドから始まる調(ハ長調)・ファから始まる調(ヘ長調)・ソから始まる調(ト長調)にそれぞれ同じ「ドミソ」という和音がありますが、調が変わるとその役割が変わります。
しかし絶対音感がある人には、どれも同じ「ドミソ」としか聞こえません。
絶対的な音感を持つため、調の持つ特性を掴むことが苦手なのです。
もちろん、良くないことばかりではありません。
常に正確な音程、聞いた音の再現など、目を見張る能力であることに違いはないのです。
私自身は[ふたつのドレミ]に書いたように、絶対音感と相対音感のいいとこ取りのような耳を持っています。
これは、ピアノも弾き、移調楽器であるクラリネットを吹いている私には、本当にありがたい聞こえ方です。
絶対音感のみを持つクラリネットの同級生は、クラリネットの楽譜と、自分が出している音の違和感に、今も悩まされてると言います。
音楽教育を専門にする友人(絶対音感あり)と話していたのは、「絶対音感を身につけた上で、相対音感の訓練をすることが、一番望ましい」ということ。
何度も書いていますが、絶対音感が身につくのは、小さい頃の訓練のみ。
このチャンスを逃すのはもったいないと思います。
絶対音感という、あとからでは手に入らないものをまず得て、そこから相対音感の訓練もする。
そうすることで、より正確で、より音楽的な演奏をすることができるようになるのです。
聴音
聴音をやる意味
聴音というのは、ピアノなどで演奏された単旋律(メロディのみ)、二声(メロディと、もう一つのパート)、四声体(4つの音からなる和音)を聴き取り、楽譜に書き起こすことを言います。
「別に楽譜が読めれば、そんなの必要ないじゃん」と思われるかもしれませんが、実際に書いてみることで、楽譜に対する理解がより深まるようになるのです。
また、自分の苦手な部分を把握するのに、聴音はとても適しています。
聴いた音を楽譜に起こす
「ピアノを聴いて、 楽譜に書く」と聞くと、とても簡単なように思えますが、実際は音の高さを判断するのと併せて、5つの異なる処理を同時に行わないとできない作業です。
リズム
苦手なリズムの克服法でも「楽譜化する」というのがありましたが、わからないリズムは当然書けません。
聴音というのは、8小節のものが一般的ですが、「一度全体を通す」「前半4小節を4回弾く」「後半4小節を4回弾く」「最後に全体を通す」という少ない回数で楽譜を完成させねばなりません。
その時に「このリズム、どうやって書くんだっけ…考えたらわかるんだけど…」とやっている暇はないのです。
テンポ
聴音は、弾き始めの前にテンポを提示してから弾くことが多いですが(ないこともあります)、そのテンポを一定の速さで刻み続ける必要があります。
ここで、「いつも速くなっちゃうなー」や「どんどん遅くなるんだよね」を発揮してしまうと、正しく楽譜に書くことは絶対にできなくなってしまいます。
拍子
聴音で最も大切なのは「どこが1拍目か」を把握することです。
聴いた音をスラスラと書いていけるのが理想ですが、なかなかそうも行きません。
そうなった時に、まずやることは「各小節の1拍目を確実に書く」ことなのです。
そのためには、曲の拍子を自然に掴めるように、普段から訓練しておくことが必要です。
テンポを一定に刻む練習をする際に、拍子も意識しておくといいでしょう。
1拍目は強拍と呼ばれていて、自然に強さや重さが出る拍です。(極端に音が大きいという意味ではありません)
慣れてくれば、1拍目を感じることは簡単なことです。
当然、普段から「楽譜を書く」という作業をしていないと、上記の3つができていても、聴音はできません。
きれいに速く、楽譜を書く練習をしておきましょう。
暗記聴音
簡単なメロディを数回聴いて、聴き終わったあとに楽譜を書き上げる「暗記聴音」というものがあります。
要は、頭の中で楽譜を仕上げ、それをあとから実際に紙に書くという作業です。
これは、聴こえた音をその都度書いていく普通の聴音よりも、音の流れを意識して聴く必要があります。
メロディをメロディとして捉える訓練になり、また、楽譜を頭の中に留め置くという作業が、暗譜の能力の向上にもつながります。
リズム聴音
一つの音のみで演奏されたリズムを聴き取ることを「リズム聴音」と言います。
音の高さがない分、リズムに集中でき楽に思えるかもしれませんが、テンポ感や拍子感が身についていないと、全く違う楽譜ができあがることになります。
視唱
視唱の必要性
楽譜を見て歌うことを、「視唱」と言います。
「ピアノやクラリネットを演奏するのに、なぜ歌が必要なのか」と思われるかもしれませんが、演奏する際には頭の中でドレミを読み、音を奏でながら演奏します。
少し難しい部分が弾けない・吹けない時は、「頭の中で歌う作業が止まってしまっている=楽譜を読むことを止めてしまっている」のです。
楽譜を読んで声に出す(歌う)ことで、音楽を演奏している間は、「決して読むことを止めない」という癖づけができます。
初見力の向上
視唱の中には、初めて見た楽譜を歌う「新曲視唱」というものがあります。
新曲視唱を行う際に大事なのは、とっさにドレミが読めなくても、音が取れなくても、とにかく歌い続けることです。
初見が苦手な人の特徴として「書いてある音を確実に出さないと先に進めない」というのがあります。
ピアノやクラリネット、その他の楽器を通すと、「わからなかった時に、とりあえずなんでもいいから音を出す」ことはなかなか難しかったりしますが、歌なら大丈夫です。
適当なドレミになってしまってもいいし、「ららら~」でも「るるる~」でもいいので、自信を持ってドレミで読めるところまで止まらずに歌い続ける、これが大事です。
音の高さが正しくなくても構いません。
一度歌い終わったら必ず、読めなかった音、音程や音の幅が正しく取れなかったところを振り返り、少しずつ苦手をなくしていきましょう。
これを繰り返すと、正しい音やリズムで歌うことが得意になり、難しい楽譜を初見で演奏することに抵抗がなくなります。
ソルフェージュで学んだことのまとめと応用
ソルフェージュで学んだことを、実際の演奏に生かさないと、せっかくの勉強や訓練も意味を持ちません。
初見と読譜がさらっとできれば、譜読みの時間が短縮できます。
リズム感とテンポ感が良ければ、生き生きとした演奏が可能になります。
音感があれば、音の流れやまとまりを掴むことが容易になります。
暗譜が得意になれば、楽譜を見ながらの演奏では気づけなかった音楽的な要素に、より気づきやすくなります。
それぞれの勉強・訓練を応用して演奏に直結させることが、何よりも大切なのです。
ソルフェージュを学べば音楽の基礎が学べます
基礎がわかったからと言って、音楽的に万能になれるわけではありません。
しかし、基礎が身についていないと、余分な時間を取られることが増えてしまいます。
誰にでも得意なこと・苦手なことはありますが、まんべんなく力をつけることで、より良い演奏に近づけるのです。
そして何より、できることが増えれば、音楽をさらに楽しむことができます。
基礎力を十分に身につけ、音楽を深く理解し、音楽をもっともっと楽しんでくださいね。