クラリネットで『海の見える街』を素敵に吹こう
12月だというのに、20℃近くまで上がったり、かと思えば急にどんより冷え込んだり、朝晩は冬の寒さだったり。
そして先日、電車から見えた富士山に雪がほとんどなくてびっくり。
温暖化、恐ろしいですね…
私達の体もそうですが、木でできているクラリネット本体も、寒暖差(温度差)には強くありません。
楽器を保管する時は、「人が快適に過ごせる場所」に置くようにしましょう。
さて、東京クラリネット教室に通われている生徒さんにも人気のジブリ作品。
クラリネット用に編曲された楽譜も、数多く出版されています。
今回は『海の見える街』・『めぐる季節』を、クラリネットソロで素敵に吹くコツをお伝えしていきます。
『海の見える街』と『めぐる季節』は同じ曲?
前回の発表会で、『魔女の宅急便メドレー』を吹かれたクラスがありましたが、その中に『海の見える街』も含まれていました。
私が持っているクラリネットソロの楽譜は、その『海の見える街』と同じメロディーなのに、タイトルは『めぐる季節』。
これはどういうことでしょうか?
『海の見える街』は映画のサウンドトラックとして作られた曲だそうで、映画の中で実際に流れます。
一方、『めぐる季節』は、サウンドトラックの原曲やコンセプトが詰まったイメージアルバムの中の1曲、『風の丘』という曲(また新たな曲が出てきました)に歌詞をつけたもの。
どの曲も似ているけれど(というかほぼ同じ)、生まれた経緯は別で、元々の楽器編成も違ったりするそうです。
久石譲さんの曲では、たまにこういうことがあって、「千と千尋の神隠し」の『いのちの名前』『あの夏へ』『あの日の川』も同じように「同じメロディーを持つ別の曲」です。
タイトルが異なるだけでなく、ちょっとずつアーティキュレーションが違ったりもするので、楽譜に正確に演奏していきたいですね。
クラリネットで『海の見える街』を素敵に吹こう
では、クラリネットで『海の見える街』・『めぐる季節』に取り組む時のポイントを考えていきましょう。
一言で言うと、なめらかなフレーズと軽やかなフレーズの切り替えが重要になります。
それでは、部分ごとのコツをご説明します。
イントロ
同じく「魔女の宅急便」で出てくる『魔法のぬくもり』とよく似たメロディーで始まります。
編曲によっては、ピアノにお任せで、クラリネットはお休みかもしれませんが、音がある場合は広々・のびのびと演奏すると、聴いている人が、今から始まるこの曲のイメージをそれぞれ膨らませることができます。
Aメロ
ここのフレーズの出だしは、『海の見える街』だとスタッカートで、『めぐる季節』では2つの音のスラーで書かれています。
こちらは『めぐる季節』の譜例です。
休みのたびに「よっこらしょ」してはいけないのですが、スラーながら軽やかに吹きましょう。
下の音にしっかり息を入れて、その勢いで上の音に飛ぶイメージで吹くと、上の音が飛び出してしまうこともありませんし、軽さを出すこともできます。
『海の見える街』のスタッカートも、あくまで「軽さ」が大切で、鋭くなったり、極端に跳ねたりしてはいけません。
ここを軽く、かわいらしく吹くことで、このあとに続く
前に比べるとちょっと長い、このスラーとの対比が生まれ、曲にめりはりが生まれます。
(こちらの楽譜上、次の小節のあたまの音が書かれていませんが、次の二分音符までスラーで吹きます)
なお、特に表記のない楽譜でも、この上行・下行は、自然なクレッシェンドとデクレッシェンドをかけるようにすると、よりなめらかさが増し、前の八分音符2つの並びと大きく違って聞こえます。
Bメロ
同じ音がスラーで続きます。
少し難しいですが、音ははっきりわかるように分けながらも、なめらかに吹くようにしましょう。
あくまでスラーの中の音です。
5小節目のアウフタクトからは、1小節ごとに音が上がっていき、Aメロ以降で出てきた中の最高音に向かいます。
これまでの最高音は半拍しかありませんでしたが、ここでは1拍半ありますので、「5小節目のアウフタクト~」→「6小節目のアウフタクト~」→「最高音」に向けて、しっかり盛り上げましょう。
この曲の中の、一番の山場と言ってもいいかもしれません。
その後、Aメロに戻ります。
間奏
2回目のAメロのあとは、間奏に進みます。
この部分が、『海の見える街』と『めぐる季節』の一番大きく違う箇所です。
リズムは同じなのですが、ざっくり言うと、音の進行がずっと下向きなのが『海の見える街』、前半上向き→後半下向きなのが『めぐる季節』です。
これは『めぐる季節』の楽譜ですが、一番上の段は高い音で終わっています。
2段目後半と3段目前半は下向きに進んでいますが、この形の十六分音符がないものが『海の見える街』ではずっと演奏されます。
下の音で終わる『海の見える街』の方が、少し落ち着いた雰囲気で、上での音に進む『めぐる季節』は明るい印象です。
また、『めぐる季節』は、一番最後の小節の次に、この曲で一番高い音が出てきます。
Bメロの最後の山場よりも、音は高いものの、あまり音量は出しすぎず、のびやかに吹くと、D.S.前の盛り上がりと落ち着きの両方を表現できます。
間奏全体は、軽やかに演奏しましょう。
鼻歌を歌うような雰囲気で吹けると良いですね。
Coda
D.S.したあとは、Aメロを経てCodaに飛びます。
『海の見える街』は、Aメロの終わりのアルペジオのまますっと終わりますが、『めぐる季節』はイントロと同じメロディーが出てきて、ゆったりと動きが止まるような終わり方をします。
イントロと同じ気持ちで吹きつつも、曲の終わりに向けてまとめていきましょう。
ここまで一定の速さで歩いてきて、徐々に歩をゆるめるような、そんなイメージで吹くと、自然にテンポを遅くすることができます。
最初から最後まで、穏やかな気持ちで演奏できると、この曲の持ち味を存分に伝えることができるかと思います。
聴いてる人が思わずほほえむ演奏を
曲には、元気の良いもの、なんだかしんみりするものなど、いろいろなタイプがありますが、『海の見える街』・『めぐる季節』は、少し憂いを帯びたメロディーでありながら、ほっこりした気分になるような音楽です。
聴いている人の頬が思わずゆるむような、心に届く演奏ができるといいですね。
なお、今回挙げた譜例とは違うアレンジ・違うアーティキュレーションの楽譜も、多々あることと思います。
細かい指示の違いはあっても、大きな音楽の作り方は同じですので、ぜひ参考になさって下さいね。
気持ちのこもった、素敵な音楽を奏でましょう。