新しいクラレパートリーに『アルバムの綴り』

2025年が始まって、一瞬で10日が経ちましたね。
今年もどうぞよろしくお願い致します。
この年末年始、私は「社会人になって初なのでは?」という6連休でしたが(これまでずっと、長くて3連休くらい)、そのわりには今までで一番「年越し・年明け」感がなかったように思います。
元々「年末もただの月末」だと思っているタイプなのですが、それにしてもなんだかすーっとあっさり日々が過ぎていった気がします。
多くの方が9連休だったようですが、皆さんは年末年始を満喫されたでしょうか。
東京クラリネット教室は、今月発表会を控えていますので、出演予定の生徒さんからは「たくさん練習できました!」なんて報告もいただきました。
発表会に出演される方の演奏ご希望の曲が重なることは、定番だったり人気曲だとたまにあるのですが、今回の発表会の曲決めのタイミングで、M.マンガーニ作曲の『アルバムの綴り』の楽譜を購入された、という方が同時に3名もいらっしゃってびっくり。
せっかくなので、『アルバムの綴り』の素敵な演奏について、考えていきましょう。
Michele Manganiについて
M.マンガーニは存命の作曲家です。(2025年現在59歳)
「Michele」さんなので、勝手に「ミシェル」と読んで、女性の方だとばっかり思っていましたが、このお名前は「ミケーレ」さんと読み、イタリアの男性名だそうです。
よくよく見るとミシェルさんとはちょこっとスペルが違いますね。
過去にも、マンガーニの曲に挑戦された方が何人かいらっしゃいますが、知っている範囲では、短いながらも抒情的で、秘めた情熱を感じさせる曲を書く方だなぁという印象です。
複雑な曲も多い昨今、楽譜の見た目が簡単だから、と軽い気持ちで手を出すと、シンプルゆえに「どうやって仕上げればいいんだ…」と頭を抱えるタイプの曲ですね。
とはいえその分、美しく聴かせるためにどう演奏したら良いかを、しっかり掘り下げることができます。
「クラリネット作品集」というCDが2作品も出ているくらい、クラリネットの曲を書いてくれていますので、ぜひお好みの曲を探してみて下さいね。
新しいクラレパートリーに『アルバムの綴り』

そんなたくさんのクラリネット曲の中でも、今回取り上げる『アルバムの綴り』は、調べてみると「最も有名な曲」との記載もあります。
せっかくなので、自分のレパートリーに加えちゃいましょう。
ピアノとの関係性
この曲は、クラリネットとピアノのために書かれていますが、ピアノは伴奏というよりも、クラリネットとアンサンブルをする要素が非常に強いので、クラリネット奏者としては、「ピアノの音の上に乗って、ソロ楽器として演奏する」のではなく、「ピアノとどうやりとりし、関係を構築していくか」に気を配るようにしましょう。
前奏は、ピアノのアルペジオから始まるのですが、これがよくある伴奏のパターンかと思いきや、クラリネットが入ってくるとピアノは絶妙なハモリパートとなるのです。
自分のパートだけではなく、しっかりピアノがやっていることも理解して、一緒に音楽を作り上げていくことが、より良い演奏のために大切ですし、それができると楽しさが増します。
曲の特徴
1つのメロディーのかたまりが34小節(17小節+17小節)という、ちょっと変則的なフレーズの曲です。
17小節の内訳は、いずれも4小節・4小節・4小節・5小節の小さいフレーズから成っています。
よくある4小節ごとのフレーズの曲とは少し異なりますが、最後のフレーズだけがイレギュラーなので、そこまで不思議な感じはせずに、演奏できると思います。
その34小節のかたまりが2回繰り返され、その後19小節のCoda部分を経て曲が終わります。(ここからCodaです、という記載はありませんので、楽譜を数えてみて下さいね)
Codaのフレーズは、4小節・4小節・4小節・7小節です。
最初のフレーズの最後の小節(34小節目)と、繰り返し部の最初の小節(1小節目)は重なっており、Codaに入る際も同じようにフレーズの終わりと次のメロディーの始まりは同じ小節内に書かれています。
最初の34小節が終わる時は、クラリネットは音を伸ばしていますが、ピアノにメロディーを受け渡す気持ちを、きちんと持つようにしましょう。
また、Codaに入るところは、八分音符でフレーズ終わりの音を吹き、休みなく次のメロディーが始まりますので、一度ちゃんと収めてから、新たに1拍目の裏から新しい旋律を吹き出しましょう。
ブレスをしても構いませんが、フレーズ最後の音がブチッと切れるようなことがあると、急に雑な印象になってしまいますので、短くても丁寧に吹くようにして下さい。
情熱的な演奏にするコツ
最初のフレーズ(17小節)のあとが、いわゆるサビにあたります。
楽譜をよく見ると、最初のフレーズには八分音符より細かい音は出てきませんが、18小節目(サビの始まり)の1拍前以降、十六分音符と十六分音符の三連符の駆け上がりが出てくるようになります。
いずれも、盛り上がりのためのアウフタクトですので、これをさらっと吹かず、拍をたっぷり使って次の拍にしっかり向かうように吹けると、不自然にならずにサビを熱く演奏することができます。
細かい音は、遅れるのが怖かったり、指が不安でどうしても慌ててしまうので、息をたくさん入れて落ち着いて吹きましょう。
クレッシェンドが書いてある十六分音符と十六分音符の三連符は、ピアノも同じことをやっています。
ここがピタッと揃うとかなりかっこいいですし、盛り上がれますので、ピアノに合わせてもらうだけではなく、この部分は特に一緒に吹く意識を持つようにしましょう。(とはいえ、聴いてしまうと遅れます)
2回目のサビは、ピアノがメロディー、クラリネットがハモリや合いの手の17小節を経て、17小節目の3拍目でクラリネットとピアノの役割が入れ替わります。
この小節はかなり重要です。
1回目のサビ同様、2回目もフォルテの指示ではありますが、同じメロディーを同じように繰り返すのではおもしろくありません。
入れ替わりを利用して、さらに情熱的に切なく歌い上げましょう。
Coda部分の吹き方
先述の通り、Codaという記載はありませんが、最後の19小節がCoda(曲の締め)にあたります。
熱かったサビが嘘のように、すっと穏やかなメロディーが戻ってきますので、「音量はなんとなく下がったけど、熱量は感じられる」という演奏にならないように注意して吹きましょう。
この切り替えは、アルバムを見て、充実の過去を回想していたところから、現実世界に戻ってくるようなイメージかもしれませんね。
微笑みながら、眠りにつくような安らかさで曲を締められると、聴いている人にも温かく柔らかな印象を持ってもらうことができるでしょう。
曲名と曲調からイメージを膨らまそう

曲を吹く際に、具体的なイメージを持つことはとても大切です。
先程、例としてサビからCodaの切り替えのイメージを書きましたが、あくまで私の感じたことですので、それに縛られることはありません。
曲を聴いて感じ取ったことと、『アルバムの綴り』というタイトルから受ける印象を、自分なりに物語として作ってみましょう。
主人公は誰なのか、どんな場所でアルバムを見ているのか、綴られているのはどのような写真なのかなど、考え始めれば、どんどんと想像は膨らんでいくはずです。
そしてそのストーリーを思い浮かべながら、心に届く演奏を作り上げていって下さいね。