初めてのクラリネットソロに!『トロイメライ』
10月に入ってから、雨が多いですね。
しかも急に肌寒くなって、何を着たらいいのか、日々困惑しています。
週末の連休はまた夏日になる、なんて予報も出ていますので、残念ながら今年も秋らしい秋はないまま冬になってしまうのかもしれません。
束の間の秋晴れは、ぜひ満喫したいと思います!
東京クラリネット教室は、生徒さんが受けたい内容でレッスンが受けられる教室ですので、「この教本をやらないと、先には進めません!」とか「曲が演奏できるのはまだまだ先です!」なんてことはありません。
ある程度の音域の音が鳴らせるようになったら、基礎がきちんと身についているかの確認の意味も込めて、なるべく皆さんに曲の練習に取り組んでいただいています。(その方が練習が楽しいですしね!)
簡単な二重奏から始めることが多いのですが、「ピアノと合わせる曲(ソロ曲)をやってみよう」となった時の最初の1曲に、よくお勧めするのが『トロイメライ』です。
今回は、「取っつきやすいけど、音楽的なお勉強も、技術的向上もできる曲」として、『トロイメライ』についてお話していきます。
まずは曲を知ろう
ソロやアンサンブル、大きめの合奏など、編成に関わらず、曲を演奏する時には、その曲がどんな曲なのかを知ることが大切です。
曲を聴いた印象から、イメージを膨らませて作り上げていく、というのも大事なことですが、そこに
- 元々何の楽器のために作られたのか
- どんな題材で書かれているのか
- 作曲家の思い・考えを汲み取る
などの「曲をどう吹くかの根拠」をプラスできれば、吹いていても聴いていても楽しい演奏をすることができます。
せっかく一つの曲を仕上げるのであれば、やれることはできる限りやって、「良い演奏ができた!」と思えるようにしていきたいですね。
『トロイメライ』はどんな曲?
ちなみに、『トロイメライ』は、シューマンのピアノ小品集『子供の情景』の中の1曲です。
「トロイメライ」という言葉は、「夢」「夢想」などの意味を持つドイツ語で、そのタイトルの通り、穏やかな夢見心地の曲調が特徴です。
それらの言葉から受ける印象、曲を聴いて感じたことを、音楽に反映させていきましょう。
初めてのクラリネットソロに!『トロイメライ』
『トロイメライ』が初めてのソロにお勧めな理由はいろいろありますが、一番は譜読みのしやすさです。
4小節の小さいフレーズ(大きいフレーズは4小節+4小節の8小節)が8回繰り返されるのですが、音の変化はあるものの、リズムがほぼ同じですので、一度掴んでしまえばすらすらと読んでいくことができます。
譜読みの難しさは、リズムの多彩さに左右される部分が大きいので、その点においては、非常に取り組みやすい曲です。
二点目の理由としては、テンポが速すぎず遅すぎず、音楽的な演奏をするのに、いろいろな気を回しやすく、表現のしやすい速さの曲であることです。
速い曲だと、「指やリズムに追われているうちに、曲が終わってしまった」なんてことも起こりますし、極端にゆっくりな曲だと、かえって抑揚をつけるのが難しくて、のっぺりした演奏になってしまうことも考えられます。
その点、『トロイメライ』は四分音符の速さが63~69くらいですので、どのように演奏をするかを考える余裕もありますし、適度に音楽も流れてくれる速度ですので、情感豊かな音楽を作り出しやすいのです。
また、音域が広いため、どの高さでも安定して音を鳴らせるようになることが必要ですので、演奏技術の向上にもつながります。
クラリネットでは、鳴りにくいとされている下の音域の「レ」(左手親指・人差し指・中指の運指)から始まるフレーズがほとんど(7回)で、その後2小節ほどで1オクターブ以上上の「ソ」もしくは「シ」まで一気に上行し、その後また2小節で下行してきます。(開放の「ソ」で始まるフレーズは、High B♭まで行きます)
下から上まで一定の息で吹けているか(上の音が充分鳴るだけの息で下の音を吹けているか)、スムーズな上行・下行のための指のポジショニングができているかなど、なめらかな演奏のための基礎力が試されます。
「基本的な吹き方は、一通り身についてきたぞ」と思った時には、ぜひ『トロイメライ』に挑戦してみましょう。
『トロイメライ』を聴き心地良く吹くコツ
そして、『トロイメライ』を、美しく、心地良く聴かせるためのコツも押さえておきましょう。
今回も、「クラリネット名曲31選」の楽譜を基にお話していきます。
先述の通り、この曲は4小節ごとのフレーズの中、2小節単位で上行と下行を繰り返しますので、高い音が飛び出して聞こえないように気をつけて演奏する必要があります。
「上の音が充分鳴るだけの息で下の音を吹けているか」ともお伝えしましたが、気をつけなければいけないのは、曲の最初の強弱がピアノで始まっている点です。
ここで、弱い息(スピードの遅い息)でピアノを表現しようとすると、レジスターキーを使った音域に上がった時にスラーがかからなかったり、高い音(というほど高くありませんが)に向けて息を入れすぎてしまって上の音だけきつくなったり、「夢見心地」とはかけ離れた演奏になってしまいます。
アウフタクトの「レ」の音を吹く時には、息のスピードはキープしつつ、量を減らした状態で鳴らすようにしましょう。
ただし、あくまでアウフタクト(メロディーを強調するための音)なので、音量を下げすぎないように、響きのある音で鳴らすように気をつけて下さい。
また、各フレーズの頂点の音に向かって、毎回必ずクレッシェンドがついていますが、むきになって大きくしてはいけません。
上行形は、自然に音量が上がってるように聞こえる性質を持っていますので、軽く息の量を増やす程度でクレッシェンドがかかって聞こえますし、それよりも上がった先の二分音符・付点四分音符を、のびやかに吹くという意識をしっかり持つといいですね。
フレーズの後半は、「下行形+デクレッシェンド」ですので、先程の逆で、デクレッシェンドをかけすぎてしまうと、音量を下げすぎたように聞こえてしまう可能性があります。
「音量を下げていく」というよりは、「フレーズの終わりをまとめる」くらいの気持ちでいるようにしましょう。
5段目は一瞬転調し、少し不穏さが漂いますが、6段目のアウフタクトで初めて、かつ唯一の「ソ」が出てきて、今までにない広がりを見せます。
ここの2段でいかに気持ちを切り替えるか、雰囲気をどう変化させるかが、この曲の鍵になりますので、なんとなく進んでいってしまわないように気をつけて演奏するようにして下さい。
最後の段の2小節目のフェルマータは、そのままどこかに飛んで行くような、のびのびとした音で、気持ち良く伸ばしましょう。
フェルマータの音にはrit.がついていますが、ここからどんどん遅くしてしまうと、収拾がつかなくなってしまいますので、それまでのテンポよりはややゆったりさせるくらいに留めて、最後の1小節(特に2拍目)で、今まで動いていたものが自然に止まるようにブレーキをかけると、曲がきちんと締まります。
曲の終わりは、全体の印象を大きく左右するので、あくまで不自然にならないように、きれいに終わらせるにはどうしたらいいか、指揮をしながら歌ってみたりして、しっかりイメージを掴んでから演奏しましょう。
ピアノとの演奏を楽しもう
当然ながら、クラリネットは一度に1つの音しか出せませんので、ピアノと一緒に演奏することで、一気に音に厚みが出ます。
今まで聞こえなかった音が聞こえてくると、平常心で吹けなかったりもするのですが、ピアノの和音の上で動いたり、メロディーの一部を一緒に奏でたりするのは、今までにない「音楽の楽しさ」を感じられるはずです。
ぜひ、ピアノとのアンサンブルを楽しみながら、ますます上達していって下さいね!