『ホールニューワールド』をクラリネットで吹く
9月に入ってから一度秋の気配がしてきて「ちゃんと季節は進むのね~」なんて思ってたのに、また信じられないくらい蒸し暑いですね。
東京クラリネット教室の生徒さんでも、体調を崩されている方がちらほらいらっしゃって、心配な日々です。
これから、世間的にイベントも増えてくる時期ですので、睡眠と栄養をしっかり摂って、不安定な気候を乗り切っていきましょう。
教室は、先月発表会が終わったばかりですが、すでに皆さん次の発表会(年明け)に向けてスタートを切ってらっしゃいます。
ジブリの音楽と並んで人気なのが、ディズニー曲。
今回は、『ホールニューワールド』を素敵に演奏するコツを身につけていきましょう。
ゆったりした曲だからこその難しさ
「ソロに挑戦してみよう」と思った時、まず選曲から始まるわけですが、皆さんどのように演奏曲を決めてらっしゃるでしょうか。
好きな曲やジャンル、ずっとやってみたかった曲、苦手を克服するための曲など、着眼点はいろいろありますね。
そんな時に、「速い曲は練習が大変そうだから、ゆっくりな曲にしようかな」なんて思うこともあるかと思うのですが、当然ながらテンポが遅い曲には遅い曲なりの難しさがあります。
語弊を恐れずに極端な言い方をすれば、速くて細かい曲は勢いで曲を作ることもできますが、遅い曲はそうは行きません。(もちろん速い曲も難しいですよ!)
音楽的な演奏のためにどうすべきかを、より考えねばなりませんし、その部分ができているかが非常にあからさまになります。
また、たまに出てくる十六分音符なども、少しでも偏っていたりすると目立ちますし、遅い分ブレスも大変になったりするのです。(吸う余裕はあっても、一息で吹かねばならない時間が長くなる)
速い曲には速い曲の、遅い曲には遅い曲の難しさがありますので、「簡単そうだから」という理由でゆったりした曲を選ぶ、ということはないようにしましょうね。
それでは、そんなゆったりした曲に分類される『ホールニューワールド』の心地良い演奏について、考えていきましょう。
今回ご説明していく楽譜は「クラリネットレバートリー 赤坂達三のディズニー作品集」に収録されているものです。
『ホールニューワールド』をクラリネットで吹く
『ホールニューワールド』を演奏するにあたり、まず始めに「原曲は歌(デュエット)である」ということを、頭の片隅に置いておくようにしましょう。
「このメロディーを歌うとしたら、どんな感じになるかな?」という考え方は、音楽を作っていく上で、良い指標になります。
Aメロ
4小節のピアノのイントロを経て、前回お話した『いのちの名前』と同じく、楽器が一番長い「シ」の音で始まります。
「シ」の音は、たくさん指を押さえている、というだけで、特段鳴りにくい音ではないのですが、ついつい気合いが入ってしまって、詰まった感じになってしまったり、裏返ってしまう方が多い音です。
イントロの間に「来るぞ来るぞ…」などと思わず、息をたっぷり吸って、響きのある音を鳴らせるように練習しましょう。
優しくクリアな歌い出しを想像すると自然に吹き出せます。
8小節のフレーズを吹いたら、繰り返しで戻ります。
1回目と2回目で音量や抑揚に変化をつけるのは難しい(あまりやりすぎると不自然になる)ので、さらっと2回繰り返すといいですね。
2カッコは、特にクレッシェンドなどの指示はありませんが、サビに向けて少し音量を上げると雰囲気が出ます。
サビ
Aメロのあとは大抵Bメロが入るのですが、この曲はすぐにサビです。
Aメロは「シ」スタートで、それより下の音域で奏でられていましたが(「ド」は出てきますが)、サビは「シ」スタートで上の音域に進みます。
それにより、「明るさ」「空間の広がり」などを感じられるような演奏ができるといいですね。
頭の中でしっかりと情景や色、輝度などをイメージしながら、演奏するようにしましょう。
サビも、Aメロ同様8小節のフレーズが2回繰り返されますが、1回目よりも2回目の方の音量の幅を広げると、さらなる盛り上がりを表現できます。
転調後のAメロ
ピアノの2小節の間奏後は、♭1つ(クラリネットは♯1つ)から♭5つ(クラリネットは♭3つ)に転調します。
一般的に、♭の数が増えると暗く、♯の数が増えると明るく感じるのですが、この曲はメロディーの音が上がっている(「シ」スタートだったのが、上の「ソ♭」スタート)こともあり、暗さよりは明るさを感じるようになっています。
先程までより、さらにのびやかに演奏するように意識して下さい。
ここは8小節のフレーズでサビに進みますので、7小節目からは「次はサビだぞ!」と意識して、山場に向かって行く気持ちで吹きましょう。
転調後のサビ
上の音域に転調していますので、サビは音がだいぶ高くなります。
High B♭の上の「レ」「ミ♭」が出てきますが、決してむきにならず、フォルテの表記に惑わされず、その前の音に息をたっぷり入れて、裏声で歌うような軽やかなイメージで鳴らしましょう。
サビの終わりにあるデクレッシェンドは、落としすぎてしまうとその先に影響してくるので、「音が下がっていくから、少し小さくなったように聞こえるかな」くらいで大丈夫です。
音量を下げていくというよりは、盛り上がりが落ち着く、といったイメージで吹きましょう。
Coda(F1小節前から)
いよいよ曲の締めです。
同じ2小節のフレーズが、4回繰り返されます。
同じことを同じように吹いては、全くおもしろくありませんので、楽譜上は何も書いてありませんが、1回目よりも2回目、2回目よりも3回目、というように、2小節単位で音量を変えて(下げて)いきましょう。
ただし、4回目がメゾピアノの指示ですので、しっかり計算して下げていって下さい。
4回目は、リズムは同じものの音が違い、その前からrit.もかかっていますので、よりのびのびと、気持ち良く曲を締めましょう。
クラリネットの出番はここまでで、ピアノの後奏4小節で曲が終わりますので、「こんな感じで終わりたいな」という希望があれば、遠慮なくピアニストに伝えて下さいね。
楽譜通りじゃなくてもいい!
私達は、再現芸術という分野でクラリネットを吹いていますので、「音やリズムを楽譜通りに吹く」ということを第一に演奏しています。
ただ、今回の曲のように歌が原曲だったりした場合、採譜(音を聴いて楽譜にすること)した人や編曲者によって、「ん?ここのリズム、なんか知ってるのと違わない?」ということも起きてきます。
この編曲の『ホールニューワールド』に今まで取り組まれた方々が、初見で必ず引っかかるポイントがあるので、そこなどはきっと実際のメロディーと記譜に差があるのだと思います。
そんな時に、「大好きな曲だからここのリズムに違和感しかないけど、楽譜通りに吹かないと…」なんて思う必要はありません。
作曲レベルで変えてしまうのはちょっと良くありませんが、コンクールなどで正確性が求められる演奏とは違うので、多少は自由にしてしまいましょう。
その場合、ピアノパートが同じリズムで弾いていることもありますので、きちんと確認して揃えるようにして下さい。
微妙に違うリズムでクラリネットとピアノが動くと、演奏がおもしろいことになってしまいます。
細かいことに囚われすぎず、好きな曲を好きなように(ある程度)、気持ち良く演奏して下さいね。