バッハをクラリネットで!『G線上のアリア』

早いもので、今年も残すところあと3週間となりました。
最近特に乾燥がひどくなってきましたので、クラリネットの取り扱いには充分気をつけましょう。
新しい楽器の方も、以前から楽器を持っている方も、水分はこまめに取って下さいね。
理由はこちらに書いてありますので、ご確認下さい!
tokyo-clarinet-school.com
余分な水分は、管体の割れだけでなく、パッドの傷みにも関わってきますよ。
ところでクラリネットは、たくさんの音色や表情を持つ楽器です。
キラキラした音も出せますし、温かく柔らかく奏でることもできますので、どんなジャンルの音楽でも様になりますね。
今回は、そんなクラリネットののびやかな音を生かせる、バッハの『G線上のアリア』に挑戦してみましょう。
G線とは?
『G線上のアリア』のタイトルにある「G線」とはなんでしょうか。
弦楽器の方々は「え、あれでしょ」となると思いますが、管楽器奏者の私達にはぴんと来ない言葉ですね。
この曲は、元々バッハが管弦楽の編成で書いたものですが、それをドイツのヴァイオリニストであるアウグスト・ウィルヘルミがヴァイオリン+ピアノに編曲したバージョンの通称が『G線上のアリア』だそうです。
オーケストラで使われている弦楽器4種(ヴァイオリン・ヴィオラ・チェロ・コントラバス)には4本の弦が張られています。(コントラバスは5本の場合もあり)
全く指で押さえないで弦を弾くことを「開放弦」と言いますが、ヴァイオリンの場合、その開放の状態で下からG線(ソが鳴る)・D線(レが鳴る)・A線(ラが鳴る)・E線(ミが鳴る)が張ってあります。
この最低音の弦・G線のみを使って演奏できる、というのがこのウィルヘルミ編曲の『G線上のアリア』なのです。
(ウィルヘルミは、バッハのオリジナルの調・ニ長調からハ長調に移調したので、G線のみで演奏できるようになりました)
ちなみに余談ですが、オーケストラでのチューニングがB♭(べー)ではなくA(あー)で行われるのは、弦楽器の構造に合わせているからです。
4種の楽器は、それぞれ張ってある線がちょっとずつ違う(開放で鳴る音が違う)のですが、A線だけは共通なので、「開放弦でチューニングしないと意味がないから、ではそれで合わせましょう」ということで、オーケストラのチューニングはAで行われます。
バッハをクラリネットで!『G線上のアリア』

それでは、『G線上のアリア』をクラリネットで吹く時のポイントを押さえていきましょう。
今回も、「クラリネット名曲31選」の楽譜でご説明していきます。
カウントの仕方
この曲は「4分の4拍子」で「Lento」の指示があります。
しかし、四分音符でカウントしていくにはあまりに遅く(四分音符30~33くらい)、また、伴奏がずっと八分音符で刻んでいますので、「1・ト・2・ト・3・ト・4・ト」で数えていくのがいいでしょう。
もちろん、全てを均等に数えるわけではなく、四分音符にあたる拍をメインで数える(少し強く数える)ようにして下さい。
あくまで、4分の4拍子です。
曲の作り
ゆっくりな曲ですので、見た目の楽譜の黒さよりは、極端に細かい動きというのはありません。
「黒い=速い」に反射的になってしまわないよう、気をつけて譜読みをしましょう。
『G線上のアリア』は、大きく3つに分かれています。
- 2小節×3の6小節のかたまりが2つ(12小節)
- 2小節×2の4小節のかたまりが3つ(12小節)
- もう一度、2小節×2の4小節のかたまりが3つ(12小節)
となっていて、最初の6小節と次の6小節は同じことを、また、後半の12小節とそのあとの12小節もほぼ同じことを吹いています。(多少リズムが違うだけで、音は同じ)
ですので、全体で36小節の曲ですが、譜読み的には18小節で済む、と言っても大げさではないかもしれません。
そんなわけで譜読みのボリュームはそこまでではないですが、同じことを同じように吹いてはおもしろくありませんので、曲を仕上げていくために、しっかり考えて取り組む必要があります。
装飾音のつけ方
曲中には、何回か装飾音が出てきます。
普段演奏している曲では、あくまで飾りなので「タラッ」と短く吹きますが、バロック~古典時代の曲を吹く時には、ちょっと違うつけ方をします。
例えば、八分音符についていたら十六分音符として、十六分音符についていたら三十二分音符として演奏しましょう。
八分音符に装飾音がついていると、その八分音符も十六分音符になりますので、「装飾音・八分音符・八分音符」という並びであれば、「十六分音符・十六分音符・八分音符」として奏されます。
十六分音符についていれば「三十二分音符・三十二分音符・十六分音符」というような奏法です。
先程「バロック~古典時代の曲を吹く時には」と書きましたが、同じように見える装飾音にも種類があり、ついている音符より前に出すもの、今回のように次の拍の長さを変えて拍のあたまから演奏するもの、など、よく見ると実は表記が違っていたりします。(斜め線のあるなしなど)
ですので、その時代の流行り・主流のつけ方の場合もありますし、装飾音の種類自体が違うこともあります。
ただの飾りで、小さく書かれているからとなんとなく流さず、きちんと音符を見て、求められている吹き方をするようにしましょう。
長い音符の吹き方
この曲は全音符で始まります。
ともすると私達管楽器が音を伸ばす時は、「ブーッ」と電子オルガンを鳴らしているような、「音の方向性のない、ただ伸ばしているだけの音」になってしまいますが、弦楽器は弓を動かさないと音を続けることができませんので、伸ばしている音にも自然に動きが生まれます。
それは、一見流れが止まっているように見える川だけど、よく見ると流れている、というような、ごくごくわずかな動きかもしれませんが、その「前に進んでいく」意識をクラリネット演奏時に持つことが、音楽の流れとなって音に表れます。
イメージが掴みにくい場合は、楽譜にあるようにじわじわとクレッシェンドをかけてみると、「次の音に向かっていく」ということがわかりやすくなると思います。
どのようにすれば良いかわかったら、音量を変えずに同じことをするにはどうしたらいいか、の練習もしておきましょう。
3・4小節目と、9・10小節目の二分音符にはクレッシェンドはついていませんが、実際に曲を仕上げる際、ほんの少し大きくするのも良いですね。
細かい音の吹き方
この曲の大半は、十六分音符かそれより短い三連符や三十二分音符で構成されています。
ただ、先にも書いた通り、テンポがゆっくり(八分音符60前後)ですので、焦る必要はありません。
しっかりとしたロングトーンの息で吹くことを心がけ、穏やかに演奏しましょう。
しかし、クラリネット吹きにとって嫌な開放近辺の音(ソやラなど)から、レジスターキーを使った音域に飛ぶことが非常に多いため、指がバタバタしてしまうと、音のつながりもがたがたと聞こえるようになります。
音が飛ぶ時は、どうしても「指を同時に押さえねば、ちゃんと鳴らない」という気持ちが働くため、「えいやっ!」と穴をふさぎ、目一杯キーを押さえたくなりますが、その気合いは音楽的な仕上げにかえって悪影響となるのです。
いくら頑張っても、そのような運指だと「タンギングはしてないけど、なめらかではないので、今一つスラーに聞こえない」という演奏になりかねませんので、指の上げ下げとそれに伴う力には、充分気を配るようにして下さい。
ブレスを攻略して美しく

『G線上のアリア』は、なんと一切休符がありません。
弦楽器の方達は、ブレスを取る意識で演奏をすることはあっても、実際にブレスをしなければ鳴らない楽器ではないので、休符がなくても困らないと思いますが、クラリネット吹きにとっては一大事ですね。
なるべくフレーズを損なわず、流れが自然に聞こえる位置で、ブレスを取るようにしましょう。
素早く吸うこと、ブレスをしたとしても気持ちは切らないことを常に意識すると、プチプチと切れた演奏にならずに済みます。
また、12小節ごとのフレーズの終わりで、少し音楽をまとめるイメージを持ちながら、八分休符くらいの空間を取ってブレスしても構いません。
当然、ブチッと切ってしまってはダメですが、ピアノ伴奏に次のフレーズへのつなぎはお任せして、たっぷり息を吸い、次の12小節も豊かな音で演奏することを優先しましょう。
心洗われる美しい演奏を目指して下さいね!