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サン=サーンスの『クラリネットソナタ』に挑戦

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講師に笑顔を向けるレッスン中の生徒

まだ梅雨の最中だと言うのに、当たったら一瞬で蒸発してしまいそうなくらいのギラギラ・ジリジリの日差しですね。

当然照り返しもひどく、日傘を差していても、尋常じゃない下からの熱さにやられてしまいます。

今からこんな「知っている真夏を超えた暑さ」では、今後が憂鬱すぎますが、自分に合った対策を見つけて、なんとか乗り切っていきましょう。

クラリネットを持ち運ぶ時のケースへの直射日光にもお気をつけ下さいね!(毎年夏の要注意事項です!)

さて、発表会で演奏する曲と言えば、いわゆるポップスだったりジャズだったり、という曲を好まれる方も多いですが、「クラリネットを吹いているからには、クラリネットのために書かれたかっちりしたクラシック曲を、一度は演奏してみたい!」と希望される方もいらっしゃいます。

「クラリネットのオリジナル曲」と一言で言っても、もちろん難易度は様々で、専門で勉強していても敬遠したくなるような難しい曲、コツコツ頑張ればできるかな?という曲、譜面は簡単でしっかり歌い込む系の曲など、いろいろなタイプの曲が存在します。

そこで今回は、「音楽的な吹き方も、細かい音の練習もできて、さらに、楽譜を無料で手に入れることができる」という、シャルル・カミーユ・サン=サーンス作曲『クラリネットとピアノのためのソナタ 第1楽章』に焦点を当てていきます。

サン=サーンスの気遣いで生まれた曲?

この曲は、サン=サーンスが「あまり注目されてこなかった楽器に、レパートリーを提供する」ということで書かれたそうで、同時期にオーボエとバスーン(厳密にはバソン)のためのソナタも書いたとか。

そこまでレパートリーがない楽器達ではないと思うのですが、他の管楽器のためにも作曲する予定だったとのことなので(結局果たせず)、サン=サーンスにとって管楽器自体が音楽界で気にされていないように見えていたのかもしれませんね。

でもその気遣いのおかげで、今や「クラリネットソナタ」と言えば、ブラームスやプーランクと並んで、サン=サーンスの名前も挙がるくらい、クラリネットのレパートリーとして重要な曲となりました。

先程ちらっと書きましたが、無料の楽譜を「ペトルッチ」というサイトでダウンロードできますので、ぜひ「最初のソロ曲」として取り組んでみて下さいね。

※ペトルッチは、著作権の切れた楽譜を置いてある仮想図書館なので、たくさんの楽譜に出会えますよ!

サン=サーンスの『クラリネットソナタ』に挑戦

レッスンで集中して演奏する生徒

それでは、サン=サーンスの『クラリネットソナタ 第1楽章』を「聴かせる演奏」にするためのコツを考えていきましょう。

主題

私が大学生の頃、サックスで別の音大に通っている友人から連絡があり、「すごくおもしろいCDを手に入れたからうちに聴きに来て!」と呼び出されたことがありました。

行ってみると、このサン=サーンスの『クラリネットソナタ』を演奏している日本人音楽家のCDを聴かされたのですが、「こんなにこの曲をつまらなく吹ける人はいない!」と友人は爆笑。(そういう意味の「おもしろい」でした)

確かに、中間部の前まではゆったりしていて、八分音符よりも細かい音符は出てきませんし、ほとんどが「四分音符+八分音符」か「付点四分音符」です。

今吹いている音はどこに向かっているのか、ということを常に考えて吹かないと、この曲は特におもしろくなくなります。(どの曲でもそうですが)

そして、最初の方は休符も多く、そのたびに「よっこらしょ」と落ち着くような吹き方になってしまうと、フレーズがぶつ切りになって聞こえてしまいますので、休みがあったとしても大きなフレーズを意識するようにしましょう。

他に難しい点が、「音の上行・下行と強弱が必ずしも一致しないことが多い」ことです。

例えば曲の出だし。
最初の6小節のフレーズはそこまで音数もないのに、たったの4小節で1オクターブ以上上の音まで上がりますが、強弱に変化はありません。

また、次のフレーズでは、始まって4小節目にそのフレーズの山であるメゾフォルテ(音も高い)が出てきて、その後じわじわと下行していくわけですが、ここにdim.やデクレッシェンドの表記はないので、小さいフレーズごとに音が下がっていくにも関わらず、音量のキープを求められます。

数小節後には逆に、音が上がっていくのにdim.が書いてあったりと、「簡単そうなのに、地味に難しい」のがこの曲です。

流れを意識するあまり、音高と音量が比例してしまったり、強弱を気にしすぎてフレーズがブチブチ切れたり、ということがないよう、両立させていく練習を重ねましょう。

展開部

23・24小節目には、短い間奏があって、次の展開へと進んでいきます。

それまでの穏やかさとは打って変わり、ここからは「秘めたる情熱」という言葉がぴったりくる、熱さを持った音楽が始まります。

今までなかった十六分音符が、ここぞとばかりに出てきますが、絶対に焦ってはいけません

細かい音符に関しては、

という点に気をつけて、練習を重ねていきましょう。

ちなみに、42小節目(練習記号1の9小節目)の♭がたくさんの上行形は「変ニ長調(Des dur)」の音階ですので、普段からコツコツ音階練習をしておくといいですね。

そして、38小節目(練習記号1の5小節目)のアウフタクトからは、心にしまっていた熱さが解放されます。

46小節目のespressivoまで、しっかり吹き切りましょう。

espressivoからは落ち着くのかと思いきや、「秘めたる情熱」部分を思い出させるフレーズが再び出てきて、揺れ動く思いを感じさせますので、穏やかになってしまわないように気をつけて下さい。

再現部~Coda部分

55小節目(練習記号2)からは、第1楽章冒頭の再現になりますが、3小節を経て、まるでほほえみながら過去を懐かしむような雰囲気へと変わるものの、すぐにピアノとともに若干の不穏さを伴いながら、完全なる再現部へと進みます。

その後、曲の終わりへと向かいますが、69小節目以降の強弱記号は、ビアノとピアニシモしか出てきませんので、ここも音の高さで音量が変わってしまわないよう、充分に注意を払って演奏します。

特にsempreピアニシモの部分は、1オクターブ上→さらに1オクターブ半上と、3小節の間に音域が大きく変わります。

音域の上昇と一緒に、盛り上がっているように聞こえてしまわない吹き方をしましょう。

最後の小さいフレーズはHigh B♭からで、この音をピアニシモで美しく、かつクリアに吹くのは相当難しいですが、はっきり入ることだけを意識して強くなったり、「そっと出ねば…!」と曖昧な音の立ち上がりにならぬよう、メトロノームに合わせて音の出だしのクオリティーを揃える練習を繰り返すといいですね。

そしてこの下行形は、絶対に遅くならないように吹きましょう。

曲の終わりだと思うと、ついついまとめたくなりますし、さらにこの音型(四分音符+八分音符)は間延びしやすく、かつ伴奏は伸ばしと休符、と、遅くなる要素がてんこ盛りなのですが、ここはさらっと・しれっと「あれ?終わったの?」と思わせる演奏の仕方をしたいですね。

そうすることで、どこか儚さを感じさせつつ、現実と夢の狭間のような、不思議な印象で第1楽章を終わることができます。

丁寧に聞かせるポイントも押さえよう

レッスンで集中して演奏する生徒

サン=サーンスの『クラリネットソナタ 第1楽章』には、下から上への跳躍がたくさん出てきます。

特に、1オクターブ以上飛ぶことも多いため、ついつい「遅れないように」「確実に飛ばねば」と意識してしまって、音が詰まってしまいがちです。(人は、嫌なところは早く通過したいので、そのような心理も働きます)

しかし、音と音が詰まれば、当然転んで聞こえますし、雑な印象を与えてしまいます。

丁寧に聞かせるには、跳躍の最初の音(ここでは下の音)に少しテヌートをつけるつもりで、しっかり鳴らしてから上の音に進むようにしましょう。

「ちょっと長くなっちゃったかも」くらいの感覚で、ちょうどいい場合もありますので、部分的に録音してみて、どう聞こえているか客観的にチェックすると良いですね。

そんな些細に思えることを気をつけるだけでも、曲の仕上がりは格段に良くなります。

吹いていても、聞いていても、丁寧でおもしろい演奏になるように、曲を作り上げていって下さいね。

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