クラリネットで奏でる『ロンドンデリーの歌』
11月に入ったら、急に冬の気配になってきましたね。
とはいえ、また明日からは少し暖かくなるようで、また少し秋を楽しめるかもしれません。
私は最近、他は元気なものの咳の症状が治らず、不便な生活をしていますが、世間的にも「咳だけひどい」という風邪が流行っているようですね。
咳がひどいと、クラリネットを吹くのも一苦労ですので、今健康な方は特にお気をつけてお過ごし下さい。
さて、前回は、『トロイメライ』の演奏方法について、お話しました。
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『トロイメライ』に挑戦したあと、もしくは最初の1曲としても選ばれる方がいらっしゃるのが、『ロンドンデリーの歌』になりますので、今回は『ロンドンデリーの歌』の美しい演奏について考えていきましょう。
北アイルランド地方で愛される民謡
『ロンドンデリーの歌』は、元々アイルランド民謡です。
イギリス領北アイルランドのロンドンデリー県(またはデリー県)に住む女性が民謡を採譜し、音楽収集家に預けたそうで、その音楽収集家が編纂した書物に収録され、そこから広まった曲のようです。
北アイルランドでは、アイルランド移民からも人気が高く、事実上の国歌としての扱いを受けているとか。
明るい雰囲気の曲ながら、どこか切なさを感じさせるメロディーは、愛される理由がわかりますね。
元々は歌詞のない器楽曲だそうですが、様々な歌詞がつけられ、歌われることもあります。
中でも『ダニー・ボーイ』のタイトルのものが有名ですので、「あ、その曲名知ってる」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
『ダニー・ボーイ』の歌詞は、いろいろな解釈がされているようですが、母親が息子を戦地に送り出す曲と聞いたことがあります。
切なさが内包されている旋律から想起される歌詞として、皆の心に響いているのかもしれません。
そんなことを考えながら、心を込めて演奏していきたいですね。
クラリネットで奏でる『ロンドンデリーの歌』
それでは、演奏のポイントを考えていきましょう。
今回も、「クラリネット名曲31選」の楽譜でお話していきます。
最初のフレーズ(8小節)
まずこの曲は、全てのフレーズが1拍半のアウフタクトから始まりますので、フレーズの切れ目を間違えないように気をつけましょう。
そして、「dolce」と「espress.(espressivo)」の指示がありますので、強弱に関わらず、曲全体でその2つを意識して演奏することが大切です。
ピアノで弱々しくなったり、フォルテだからと力強くなったり、ということがないようにして下さい。
また、『トロイメライ』ほどの音の幅ではありませんが、音の上行・下行が繰り返される曲ですので、音量のムラ(低い音は弱い・高い音は飛び出る)がないように、「均等に聞こえているか」に注目しながら、演奏するようにしましょう。
クラリネットパートが演奏し始めて6小節目(ピアノの前奏も入れたら10小節目。アウフタクトは数えません)の八分音符の下行→上行は、特に指示はありませんが、「レ#」に向かってしっかり息を入れるようにすると、その後がスムーズに進んでいけます。
その小節の3拍目の裏の前に息を吸うかは悩ましいところですが、可能であれば一息でいけるといいですね。
ブレスをしない場合も、きちんとスラーの切れ目でタンギングをして、小さいフレーズを分けるようにはしましょう。
展開部(次の8小節)
クラリネットの演奏が8小節終わったところで、次の展開に入ります。
アウフタクトの始まりの音も高くなりますし、音量も上がりますので、のびのびと演奏したいところです。
付点四分音符の「ソ」の音を気持ち良く響かせることを意識すると、のびやかさが増します。
メゾフォルテだからと、音量にばかり気を取られて、硬い音になってしまわないように、注意して鳴らすようにしましょう。
そこから4小節経たところで、この曲の一番の山が来ます。
アウフタクトの「レ」の音からたっぷりと(テヌートが短くならないように)、付点四分音符の「シ」は先程の「ソ」同様、遠くに飛ばすようなイメージで響かせましょう。
しっかり感情も込められるといいですね。
しかしこのフォルテは1小節しか続きません。
すっと音量を下げ、穏やかに1番を締めましょう。
2回目(繰り返し後)
1カッコのあとは、繰り返し記号でクラリネットの吹き出し(5小節目)に戻ります。
繰り返しということは、楽譜の指示はそのままなわけですが、真に受けて1回目とまるっきり同じように吹いてはいけません。
変化させる方法は、
- 1回目は強弱の幅を控えめに・2回目は大げさに
- 1回目は抑揚をつける・2回目は淡々と入って、後半は1回目より盛り上げる
- もっと細分化して、1回目と2回目で差をつける
など、自分の中でしっくり来るものを選んで、表現するようにしましょう。
また、楽譜に指示はありませんが、先程書いた「一番の山」に入るアウフタクトは、2回目の場合少し溜めた感じでゆっくりさせた方が、より情感豊かに演奏することができます。
そのゆっくりは引きずらず、フォルテの小節からはテンポに戻しましょう。
2カッコには、アルペジオがあります。
前のフレーズはピアノの指示ですが、低い音から始まって、ディミヌエンドをしながら上行し、2オクターブ上の音をピアニシモで伸ばすことを考えると、アルペジオの最初の「シ」の音を、弱い音で吹いてしまうのは危険です。
弱い音スタートだと、ディミヌエンドをかけられない(落としようがない)ことに加え、最後の音を伸ばしている間に上の「シ」が「ウー」という音に下がってしまうリスクが上がります。
「強く吹く」ということではありませんが、吹き始めの「シレソ」は、少したっぷりめに鳴らすようにしましょう。
低い音ですので、そこまで違和感はないはずです。
その3音でたくさん息を入れておければ、ディミヌエンドをかけながらでもアルペジオがするっと上がれますし、最後の「シ」の音も怯えることなく鳴らせます。
ちなみに、伸ばしの音に入る際にぱっと入らず、「シの音は、勢いで上がっていくのではなく、丁寧に入ろう」という意識を持ちながら、ほんの一瞬間を作れると、大人な演奏になります。
とはいえ、「適切な間」というのはかなり難しいので、素敵に聞こえるようにするにはどうしたらいいか、いろいろ試してみて下さいね。
そして、「適切な間」のあとに入った「シ」の音は、縮こまったピアニシモにならず、どこか遠くへ飛んでいって、空気に溶けるような音を鳴らせると良いですね。
音楽的表現の足掛かりを掴もう
『ロンドンデリーの歌』は短くて、技術的にもそこまで難しくない曲ですが、短い中にもより良い演奏のために考えることが詰まっています。
どんな時に、どんな感情で演奏されてきた民謡なのかは、想像の域を出ませんが、演奏する人それぞれがイメージを持ち、思いを馳せながら吹ければ、聴いている人の心に届く演奏になります。
ただ楽譜の音をなぞるだけでなく、音楽的な演奏のためにどうしたら良いかを考えて、それを表現できるように練習することは、今後の曲演奏に必ずつながっていきますので、この短い曲を足掛かりにステップアップしていけるよう、曲と向き合ってみて下さいね。