クラリネットで吹くフォーレの『シチリアーノ』
3月ももう10日が過ぎました。
東京クラリネット教室第12回発表会からも、早3週間経ち、すっかり皆さん次のイベント&発表会モード。
前回の発表会に出た方も、お客様としていらして下さった方も、「発表会出ます!」と続々名乗りを上げて下さって、嬉しい限りです。
さて、ここ数回の発表会では特に、「必ずどなたかが演奏しているのでは?」という曲の一つが、フォーレの『シチリアーノ』。
美しく、なんとなく切ない旋律に心打たれる方も多いですね。
そこで、奏者もお客さんも心地良い音楽にするためのコツを押さえて、気持ち良く演奏できるようにしていきましょう。
シチリアーノ?シチリアーナ?シシリエンヌ?
今回、取り上げる『シチリアーノ』。
『シチリアーナ』『シシリエンヌ』などと呼ばれることもありますが、これは言語の違いだけで、意味は同じになります。
私が使っている楽譜は『シチリアーノ』と表記されているので、ここではそのように統一していきます。
また、なぜ「フォーレの『シチリアーノ』」と記載したかと言うと、『シチリアーノ』は音楽の形式(舞曲)であり、他の作曲家もたくさん書いているためです。
例えば『メヌエット』『ポルカ』『マーチ』などと同じ、音楽のカテゴリーにしかすぎませんので、『シチリアーノ』とだけ書くと「誰の?」となるわけですね。
ちなみに広義の『シチリアーノ』とは、17~18世紀に流行した田園的・牧歌的なのどかな曲調の音楽で、8分の6拍子か8分の12拍子で書かれ、付点のリズムが特徴。
基本的には短調で書かれています。
フォーレの『シチリアーノ』も、まさにそうですね。(短調で8分の6拍子)
それでは、具体的に演奏のポイントを考えていきましょう。
クラリネットで吹くフォーレの『シチリアーノ』
フォーレの『シチリアーノ』は、いろいろな編曲が出ていると思いますが、今回は「クラリネット名曲31選」の楽譜を基に、ご説明していきます。
演奏上、特に重要になるのが
- テンポの設定
- 付点のリズムの吹き方
- 強弱のつけ方
の三点です。
テンポの設定
まずは曲のテンポですが、「Allegretto molto moderato」との表記がありますので、あまり速すぎない方が、曲の雰囲気を表現しやすいでしょう。
付点四分音符60くらいの速さを上限に考えると良いと思います。(もちろんお好みに合わせて決めて下さいね)
付点のリズムの吹き方
先程書いたように、『シチリアーノ』は付点のリズムが特徴なので、付点八分音符と十六分音符が多用されていますが、この付点が安定しないと、ゆったりした流れが一変してしまいます。
こちらの譜例は、上下で書かれている音符は同じですが、リズムは違います。
もちろん、音符同士の関係性(付点八分音符は十六分音符3つ分・八分音符は十六分音符2つ分)は変わりませんが、4分の2拍子の十六分音符は「1/4の長さ」、一方8分の6拍子の十六分音符は「1/2の長さ」ですので、次の八分音符との近さが変わるのです。
すなわち、4分の2拍子の十六分音符の方が、そのあとの八分音符に入るのが早い、ということになります。
そのリズム感で、8分の6拍子の付点を吹いてしまうと、少し跳ねているような、詰まった印象の演奏になってしまいますので、十六分音符と八分音符の距離感には重々気をつけましょう。
強弱のつけ方
どんな曲でもそうですが、その曲に合った強弱の表現が必要になります。
『シチリアーノ』では、弱い音量(ピアノ・ピアニッシモ)については、音量を落とすことを一番に考えて、弱々しく小さく吹くのではなく、dolceの表記もありますので、柔らかさやのびやかさを意識しましょう。
「どこか遠くから聞こえてくるメロディー」というイメージを持つと、吹きやすくなります。
強い音量(メゾフォルテ)は、「その遠くから聞こえていたメロディーが、目の前に来て実体を伴っただけ(=雰囲気は変わらず音量のみ上がる)」の表現ができると、曲に統一感が生まれます。
また、複数回出てくるスフォルツァンドですが、表面的な強さではなく、「深さ」「重さ」がほしいですね。
文字でお伝えするのは大変難しいですが、「ター」ではなく「タァアー」といった感じでしょうか。
あえて例えるとするならば、お寺の大きな鐘を撞いた時の、響きがあとからついてくるような音の鳴らし方が近いかもしれません。(音を押すわけではないので、間違えないで下さいね)
特にこのスフォルツァンドをどう吹けるかで、曲全体の雰囲気や締まりが変わります。
ベストな吹き方を、しっかり探求するようにしましょう。
流れるような演奏を目指そう
『シチリアーノ』は、最初に書いた通り舞曲です。
カクカクとした演奏では、踊ることはできません。
拍子はきちんと感じつつも、なめらかに、流れるような音楽になるよう、練習していきましょう。
ピアノ伴奏のアルペジオにうまく乗れると、より吹きやすくなりますので、伴奏合わせに慣れてきたら、しっかりピアノを聴きながら演奏できるといいですね。
気持ち良く吹き切れるように、イメージなども大切にして、音楽を作り上げていって下さい。