クラリネットでピアノ曲『亜麻色の髪の乙女』
まだかろうじて風は爽やかですが、徐々に蒸し暑い日が増えてきましたね。
レッスンにいらした生徒さんにも、ご挨拶したあとに「今日も暑いですねぇ」と思わず言ってしまう日々です。
真夏には、最近の暑さより10℃くらい上がることが考えられますので、今のうちに暑さに慣れておいて、夏を無事に乗り切っていきたいものですね。
そんなこんなで、いよいよ第13回発表会まであと2ヶ月ほどとなりました。
毎回とまではいきませんが、年1回くらいのペースでどなたかが発表会で演奏されるのが、ドビュッシーの『亜麻色の髪の乙女』です。
聴いているよりも、演奏するのが何倍も難しい『亜麻色の髪の乙女』ですが、ポイントを押さえて、気持ち良く演奏できるようにしていきましょう。
好みの調で演奏しよう
『亜麻色の髪の乙女』は、前回お話した『春の歌』同様、元々はピアノ曲です。
24曲ある前奏曲集の中の1曲で、他の曲達もまるで絵画のタイトルのような、美しい曲名がつけられています。
ゆったりした三拍子が特徴の曲ですが、原曲は♭6こという一瞬しり込みしてしまいそうな調で書かれていて(実際は黒鍵中心になるので、意外と難しくありません)、クラリネットで演奏される時はそのままの調(B♭クラリネットであれば♭4つ)で演奏されることは少なく、私が持っている楽譜だけでも♯1つ(クラリネットは♯3つ)であったり、調号なし(クラリネットは♯2つ)であったり、様々な調に編曲されています。
♭系の調と♯系の調では、曲の雰囲気が変わるのですが、ヴァイオリン編曲版で有名なものは♯1つだそうですし、自分の吹きやすさや、好みで選んでしまって良さそうですね。
もちろん、原調にこだわるのも良いと思います。
ちなみに、東京クラリネット教室の生徒さんが演奏される時には、「クラリネット名曲31選」の楽譜をお勧めしています。(ヴァイオリン版と同じく♯1つの調に編曲されたものです)
クラリネットでピアノ曲『亜麻色の髪の乙女』
この曲の最大の難しさは、「クラリネットがメロディー、ピアノが伴奏」と明確にわかれているわけではない点でしょう。
クラリネットが一番上の音を担当して演奏してはいるのですが、ピアノが伴奏している上で自由に吹く、というよりも、一緒に和音を作り上げていく要素の方が大きいのです。
ということは、ピアノが何をやっているかの正しい理解が必要になります。
これは、ドビュッシーの曲をクラリネットで吹く際に、どの曲でも共通して求められることが多いので、いつも以上に「ピアノが担当していることを知り、ピアノと一緒に吹く」という意識を持って臨んで下さいね。
では、具体的な演奏方法を考えていきましょう。
曲の吹き出し
まず曲の最初ですが、クラリネットのみで始まります。
一音目の「ミ」の音は、強弱記号ピアノの指示ですが、恐る恐る吹いてはいけません。
出だしはクリアに、でも、どこからともなく聞こえてくるような音で吹き始められると、曲の世界にすっと入り込むことができるでしょう。
テンポをしっかり刻んでから吹き始めるようにしないと、その先が不安定になりますので、注意して下さい。
大事な音型
その後の八分音符と十六分音符2つの音型ですが、曲全体を通して鍵となるリズムですので、吹き方次第で仕上がりが大きく変わります。(あとから出てくる十六分音符2つと八分音符も同じ)
手に持った小さなボールを、軽く上に投げ、それが放物線を描いて手に戻ってくることを想像してみて下さい。
投げ上げる瞬間に、少しの力をボールに伝えると、あとはこちらの意思とは関係なく楕円の動きをして、返ってくるわけですが、それが八分音符+十六分音符2つ(もしくは十六分音符2つ+八分音符)の音型の吹き方のイメージになります。
文字でお伝えするのはすごく難しいのですが、始めの音の吹き出しの勢い(強さではない)で、あとの二音が自然についてくる、という感じです。
その音型が連なっている時は、ポーンポーンポーンと、連続して投げてみましょう。(頭の中で)
拍のあたまの勢いで、円運動が続いていくように演奏できると、音楽が流れていきます。
曲の山
抑揚はありつつも、基本的に穏やかに進んでいきますが、曲の真ん中(19小節目)にある「Un peu animé」から、急に山に向かいます。
ピアノも音数が増え、一番一緒に音楽を作り上げている感覚が強い部分かもしれません。
うまくピアノの流れに乗っかりましょう。
少し切迫感のある音型で上行していき、Un peu animéから3小節目で、この曲の最高音(今回の編曲だとファ♯)が出てきます。
高い音だからと必死で出そうとせず、切迫していた雰囲気からの解放を意識すると、のびやかに演奏できます。(山とは言え、強弱の指示はメゾフォルテです)
前後の指の流れを考えると少し難しいのですが、たくさん押さえる方の運指を使った方が、ファ♯は鳴りやすいですし、音程も音質も良くなりますので、ゆっくり繰り返し練習して、なめらかに吹けるようにしていきましょう。
この部分は、わかりやすく上っていって曲の山に到達し、わかりやすく下りてくる音型ですので、それに従って音量も上げ下げします。
その後の4小節は、曲の終わりに向けて、落ち着きを取り戻すようにしましょう。
再現部と曲の終わり
最後から11小節目のアウフタクトからは、曲の最初と同じメロディーが1オクターブ上で再現されます。
高い「ミ」の音は、ただでさえきちんと鳴るツボが狭いので、「ピアニシモて!!」という感じは否めませんが、この部分はピアノパートは和音を伸ばしていますし、あまりにテンポや拍子を無視しすぎなければ、自分の間(ま)で出て大丈夫です。
très doux(とても優しく)の指示もありますので、おどおどせず心穏やかに、ここも曲の最初の音同様、遠くからすーっと聞こえてくるような吹き出しができると、うっとりするような演奏になります。
終わりから5小節目にまた上行形が出てきますが、perdendosiの指示がありますので、うっかり大きくなってしまわないように、気をつけねばなりません。
「2オクターブ近く上がるのに、≪消えていくように≫とは…?」という難しさですが、その前もピアニシモですし、少なくとも音量のキープに努め、その小節3拍目の高い「レ」が飛び出さないように気を遣えれば、最後の「ド♯」にそっと入ることができます。
最後の伸ばしは3小節と1拍ありますので、デクレッシェンドをかけてしまったりすると、途中で消えてしまう可能性があります。
ここも音量キープで、切る時に余韻を残すように消えられると、最後までこの曲の世界に浸りきることができるでしょう。
ドビュッシーらしさを表現しよう
実は『亜麻色の髪の乙女』は、39小節しかありませんが、そんな短さを感じさせないくらい、ドビュッシーらしさがぎゅっと詰まった、美しい曲です。
そしてその「ドビュッシーらしさ」というのは、先述したように、ピアノと一緒に作り上げることで表現でき、完成します。
ピアノ譜も見開き1ページに収まる長さですので、その楽譜を見ながら練習するのもいいかもしれません。(ピアノ譜にもクラリネットパートは書いてあります)
いつも以上にピアノパートに気を配り、1人で演奏しているかのような、一体感のある音楽を作っていきましょう。