クラリネットのチューニング方法
ピアノ伴奏とのソロ演奏やアンサンブル、吹奏楽やオーケストラなど、クラリネットの活躍の場はたくさんあります。
それらに共通しているのは「誰かと合わせること」。
合わせる際に大切なことの一つ『チューニング』について、よくわからなかったり、なんとなくになっている部分はありませんか?
今回はその『チューニング』についてご説明していきますので、しっかり知って、人と一緒に行う演奏の質を高めていきましょう。
チューニングとは
まず、チューニングとはなんでしょうか。
簡単に言うと、演奏者全員の音の高さを揃える作業です。
チューニングはなぜ必要か
音には、実は幅があります。
例えば「ド」という音を鳴らした時に、「シ」に近い「ド」もあれば、「ド♯」に近い「ド」もありますので、基準の音の高さ(音程)を揃えてから合奏に入ります。
奏者ごとの音程がずれていると、同じ音を鳴らしていても「ゥワンゥワンゥワン…」という「うなり」と呼ばれるものが聞こえてきて、演奏の邪魔をします。
管楽器や弦楽器は、ピアノのように「いつ鳴らしても同じ音の高さ」というわけにいきませんので、複数人で演奏する時にチューニングをしないと、いくら感情を込めて上手に演奏しても、その「うなり」のせいで「なんかすっきり聞こえない」ということになってしまいます。
音がずれる理由
では、なぜ「いつ鳴らしても同じ音の高さ」というわけにいかないのでしょうか。
クラリネットは、
- 奏者の吹き方(口・息)
- 温度や湿度
- 吹き始めてからの時間経過
などが、音程に反映されるため、音のずれが発生します。
特に、外気温の与える影響は大きいため、ずれ方も一定とはいかず、都度微調整が必要になってくるのです。
クラリネットのチューニング方法
「チューニング」というものがわかったら、クラリネットのチューニングの仕方を見ていきましょう。
チューナーを使ったチューニング
簡単なのは、チューナー(チューニングメーター)を使ったチューニングです。
この写真のように、チューニングする機能だけのものやメトロノームとの一体型など、楽器店で売られているものに加え、今はスマートフォンのアプリなどもあります。
チューナーは、音を鳴らすと、基準としてセットした音程に対して、鳴っている音が高いか低いかを表示してくれますので、一目瞭然で自分の音程がわかります。
耳を使うとは
チューナーで音を合わせることが、最も手早いのですが、チューナーがない状況でも音を合わせなければならないことは多々ありますので、自分の耳で「合っている」「ずれている」がわかるようになっておく必要があります。
それを「耳を使う」というのですが、正直なところ、始めのうちは「合ってるのかどうかもわからない」という状態だと思います。
まずは「1つの音に聞こえているのか」「何人か分の音が聞えているのか」に、耳を傾けるようにしましょう。
聞こうとしなければ、聞き分けられるようにはなりません。
ずれている時に「なんか気持ち悪いかも…」と思えれば、耳が使えるようになってきた証拠です。
うなりのない、ぴたっと合った音を目指す第一歩が踏み出せていますので、継続して、自分が出している音・周囲が出している音を聞くようにしていって下さい。
チューニングで合わせる音
チューニングの際に合わせる基準音というのは、編成によって変わってきます。
吹奏楽・管楽アンサンブル
吹奏楽や管楽アンサンブルの際は、B♭クラリネットの「ド」で合わせます。
基本的には
この高さの「ド」で合わせますが、クラリネットを始めたばかりでこの音域は出せない、などという場合は、1オクターブ下の「ド」でも構いません。
なぜ吹奏楽や管楽アンサンブルでは、「ド」で合わせるのかというと、金管楽器はB♭管が多く、管が一番短い状態(ピストンを押さえない・スライドを伸ばさない)で鳴る音が、この「ド(B♭)」だからです。
金管楽器が音程を取るベースとなる、管が一番短い状態で音合わせをして、合奏に臨むということになります。
オーケストラ・弦楽器とのアンサンブル
一方オーケストラや弦楽器とのアンサンブルでは、B♭クラリネットの「シ」で合わせます。
こちらも
この高さの「シ」で合わせます。
オーケストラと吹奏楽でチューニングの音が異なる理由は、オーケストラでは弦楽器を基準に合わせるからです。
弦楽器は、左手の指で弦を押さえて各音を弾き分けますが、ほんのちょっと指の角度を変えただけでも音程が変わってしまう繊細な楽器なので、何も押さえていない状態(弦が一番長い状態)でチューニングをする必要があります。
オーケストラには、ヴァイオリン・ヴィオラ・チェロ・コントラバスの4種の弦楽器があり、それぞれが4本ずつの弦を持っているのですが(コントラバスは5本の場合もあり)、その4本の弦の中で、どの楽器にも共通して張られている弦が、「A線(あーせん)」と言って、B♭クラリネットで言うところの「シ」が鳴る弦なのです。
ちなみに、もしオーケストラにA管で参加する時は、先程の「ド」の音を吹いて下さいね。
音の合わせ方
音程が基準とずれていることに気づいたら、もちろんそのまま吹き続けていてはいけません。
なんらかの対処をしましょう。
基準より高い時
もし、自分が鳴らしている音が高いと感じたら、楽器を長くする必要があります。
「楽器を長くする」ということは「少し抜く」ということです。
クラリネットは5つのパーツから成っていますので、どこを抜くのか、ということですが、抜く場所によって音程の変わり方に違いがありますので、よく気をつけて調整するようにして下さい。
まず一番に抜くべきは、樽と上管です。
これくらい抜いただけでも、充分音程は変わりますので、抜きすぎには注意しましょう。
「合わないから」とどんどん抜いている人をたまに見ますが、ここまで行ってしまうと抜きすぎです。
樽と上管の間に余分な隙間ができてしまうので、空気がまっすぐ抜けず、吹きにくさにつながります。
あまりに合わないようであれば、吹き方も見直しましょう。
口を締めすぎていると、音は上ずってしまいます。
息をたくさん入れようとすると、締まりすぎていた口は、ちょうど良い圧力になりやすくなりますので、小さい音で吹かずに、しっかり息を入れましょう。
次に抜くとしたら、上管と下管のジョイントですが、ここを抜く時は要注意です。
抜くことによって楽器を長くして音程を下げているわけですが、上管と下管の間を抜くと楽器の下半分だけが長くなることになりますので、音程のバランスは崩れます。
上管の上の方の音は変わらず、左手薬指を使う「ド」の音あたりから少し下がり、下管も全体的に下がります。
チューニングの「ド」を合わせたい一心で、真ん中も思いきり抜いてしまうと、1オクターブ下の「ド」がかなり下がってしまいますので、慎重に調整して下さい。
最後に、下管とベルのジョイントですが、ここは抜いてもほぼ関係ありませんので、抜く必要はありません。
抜いたとしても、せいぜい全部押さえた最低音の「ミ」と、同じ指でレジスターキーを押さえた「シ」が下がるだけです。
夏場の部活などで、全てのジョイントを3mmくらい抜いているのを見ることがよくありますが、それはクラリネット本来の姿(バランス)ではありません。
チューニングの「ド」を合わせることばかりに気を取られ、他の音が大きくずれてしまっては意味がありませんので、チューニングの目的を「ドを合わせる」に据えてしまわないように気をつけましょう。
基準より低い時
基準より低い場合は、高い時の逆ですので、楽器を短くせねばなりませんが、クラリネットは元々隙間のないように組み立てるため、それは無理ですよね。
音程を上げるためには、楽器を温めましょう。
楽器が冷えていると、音程は著しく下がります。
ただし冬場など、楽器が極端に冷えている時に、一気に温めるために一生懸命フーフーと息を入れるのは、やめましょう。
私も知らずによくやっていましたが、木の楽器にとって、急激な温度変化も、急激な加湿も良くありません。
もちろん、ストーブやエアコンなどに当てることも、絶対にやってはいけません。
楽器を組み立てて、こんな風にキーが白くなってしまったら、相当楽器は冷えています。
慌てて息を入れず、ゆっくりと室温に馴染ませましょう。
ですので、寒い時はチューニング前に時間に余裕を持つようにして下さいね。
その後は、いつも通りウォーミングアップすれば、だんだんと音程は安定してきます。
また、息のスピードが遅かったり、口がゆるかったりしても音程は下がります。
上ずっていた時と同じように、息をしっかり入れるようにしましょう。
たくさん息を入れようとすれば、息のスピードは上がりますし、口の支えも必要なので音程が安定します。
合わせる時の注意点
「基準音を合わせる」という気持ちばかりが先に立つと、「とにかく合わせる」ことが目的になってしまい、口をゆるめたり締めたり、「吹き方を変えてでも合わせる」方向に行ってしまうことがあります。
当然それでは、チューニングの意味が全くなくなってしまいますので、いつも通りの吹き方をすることを心がけましょう。
それに関連して、「いつも通りの吹き方」が、安定している必要がありますので、普段の練習から太く・まっすぐした音で演奏できるようにしておいて下さい。
チューニングするタイミング
チューニングは、他の奏者との基準音を合わせることが目的ですので、その目的に沿ったタイミングで必要となります。
基礎練習・ウォーミングアップ前
複数人での基礎練習やウォーミングアップを始める前には、軽くチューニングをしましょう。
「軽くって何?」と思われるかもしれませんが、「合うまでとことんやろう!」というスタンスでなくて良い、ということです。
なぜなら、クラリネットをケースから出したばかりだと、まだ音程が安定しておらず、吹いていくに従って変化していくため、基礎練習前にがっちり合わせたところで、数分後にはまたずれてしまうからです。
ただし、和音をとる練習をする場合などは、基準が合っていないと、全く意味のない練習となってしまいますので、しっかりウォーミングアップが終わった状態で、チューニングをきっちりしてから取り組みましょう。
アンサンブル・合奏前
楽器がきちんと温まったら、アンサンブルや合奏前にも再度チューニングをしましょう。
ここは「軽く」ではなく、きちんと合わせることが必要です。
なかなか長い時間は取れないと思いますので、一人一人がチューナーで合わせた後に、基準音を鳴らしている人に合わせていくのが、効率的です。
しっかり耳を使って、ぴたっと合う状態を目指しましょう。
演奏の最中
チューニングの音が合ったとしても、他の音が全て合うわけではないですし、曲を吹いている間にも、音程はどんどん変化します。
特に、ホールでの本番などでは、照明が強いので、すぐに音程は上がっていくでしょう。
だからと言って、演奏しながらチューナーを使って音程を合わせるわけにはいきませんね。
ですので、「チューニングをするタイミング」の話とは少し異なるのですが、演奏をしている間は常に耳を使い、周囲との音程の差を埋めるように心がけて下さい。
「全体に上ずってきた」などの場合は、抜いて調整することも大切ですし、特定の音のずれが気になる場合は、ほんの少しだけ口や息を変化させて、自然に聞こえるようにしましょう。
ただし、あくまで「ほんの少しだけ」です。
基本的には、音ごとに吹き方を変えることはしてはいけませんよ。
掃除のあと
クラリネットは、下から水が垂れてくるほど掃除をしない状態は望ましくないため、こまめにスワブを通すことが大切ですが、この時にチューニングで抜いたジョイントが、動いてしまうことがあります。
掃除後は演奏に入る前に、さらっとチューニングすることを、習慣にしておきましょう。
休憩からの再開時
演奏していると、どんどん音程が上がっていくのと逆に、吹いていないと音程は下がりますので、休憩明けもチューニングは欠かせません。
冬場よりも夏の方が、エアコンで部屋が冷えていたりしますので、音程の変化は大きくなります。
音程をなるべく維持するという点と、楽器を保護する意味でも、もし長い休憩に入る時は、保温ができるような布にくるんだり、一度分解してケースに片づけましょう。
自分の楽器の傾向を知っておこう
スムーズなチューニングと、演奏中の音程を安定させるためには、チューナーを使って自分のクラリネットの音程の傾向を知っておきましょう。
- 常温(暑すぎず寒すぎずの温度)の時に、ケースから出したばかりだと、チューニングの「ド」はどれくらいの音程なのか
- そこからウォーミングアップを終わらせると、どこの音程に落ち着くのか
- チューニングの音がぴったり合っている時に、他の音の音程はどうなるのか
などを、しっかり把握しておくことで、耳を使って演奏中に音程を気にする時も、合わせやすくなります。
例えば、クラリネットの特性として、開放の「ソ」~「ラ♯」がどうしても上ずるのですが、その上ずり方も楽器によりますし、「音程と音色を安定させるために右手を押さえる」という話を聞いたことがある方もいらっしゃると思いますが、これも「どの指を押さえるか」というのも楽器によって差があります。
むやみに「右手全部押さえる」だったり「人差し指と中指だけ押さえる」と決めるのではなく、音ごとに音程と音抜けがいい指の組み合わせをチェックしておきましょう。
また、右手だけでなく、左手薬指を加えることで良い方向に変わる場合もありますので、試してみて下さい。
もし普段のロングトーンでチューナーを使う時は、真ん中にぴったり合っているかをチェックするのではなく、
- 各音はどのような音程の傾向があるのか
- まっすぐ伸ばせているか
に注目して使用するようにしましょう。
どうしても本番で合わない時は
本番でステージに出たあと、チューニングをすることがあると思いますが、あまりに合わないと焦ってしまいますよね。
もちろん本番ですし、チューニングの「ド」の音がぴたっと合った状態で演奏に入りたいのはやまやまですが、3回くらい吹いても合わない時は、潔く諦めましょう。
何回も繰り返していると、焦りが募って、合っていても合っていないような気になってしまったり、お客さんにも「あの人、音が合わないんだな」という印象を与えてしまい、微妙な空気の中演奏することになってしまいます。
それになにより、チューニングの「ド」が合ったからと言って、全ての音が合うわけではないですし、その逆も然り、です。
「ド」が合わないからと言って、全部の音が合わないわけではないのです。
「いくらいじっても全然合わない!!」という時は、さも合った顔をして、本番の演奏に集中しましょう。
曲を始めたら、意外と気にならないはずです。
練習ではしっかり気にして、音程が合ってから演奏に入った方がいいですが、本番にどうしてもこのような状況に陥った場合は、参考にしてみて下さいね。
チューニングは日々の積み重ね
チューニングというのは、普段からやっていない人にとっては、とても難しいものです。
合っているか合っていないか、というのは、簡単にわかりそうな気がしますが、意外と聞き分けられません。
また、チューナーで各自がぴったり合わせているのに、いざ全員で吹いたらなぜか音が合わないこともありますし、そこから合わせていくには、どうしても耳が必要です。
億劫がらずに、チューニングを習慣づけ、また、みんなで演奏する時には自分が出している音・周囲で鳴っている音にしっかり耳を傾けて、合奏の時にさっと対応できるようにしておきましょう。