ドレミとは

普段何気なく使っている「ドレミファソラシ」。
『ドレミの歌』というものもあるくらいですし、極端な話、物心がついた頃から、きっとみんなが当然のように知っているのではないでしょうか。

では、ドレミ…って何語でしょう?

私のところにレッスンに来ている方には、必ず聞く質問です。
「あー、考えたことがなかったです…」か「日本語じゃないんですか?」と答える方がほとんど。
多分、今まで正解を答えられた方はいなかったんじゃないかと。

というくらい、楽譜が読める読めないに関わらず、老若男女みんなが当たり前に使っているのに、正体不明な「ドレミファソラシ」。
どこで、どのようにして生まれたのでしょうか。

ドレミってどうやってできたの?何語?

『ドレミの歌』から「ドレミ」が生まれた?

昔々、音には名前がありませんでした。
楽譜は一応存在していましたが、現在のように五線ではなく二線。
音を人に伝えるには、歌って聴かせていました。

この伝達方法を不便に思っていたのが、イタリアの修道僧で、音楽教師でもあったグイード・ダレッツィオ。
10世紀後半に生まれたグイードは、8世紀頃から存在していた『聖ヨハネ賛歌』に着目、編曲をしました。
ラテン語で書かれている歌詞は以下の通りです。

Ut queant laxis
Resonare fibris
Mira gestorum
Famuli tuorum
Solve polluti
Labii reatum
Sancte Johannes

この曲は、今で言う『ドレミの歌』のように、一節ごとに音が高くなるように書かれています。(グイードが作曲したとの説もあり)
そこで、各節の始めの文字をとって「Ut Re Mi Fa Sol La」と、音に名前をつけたのです。
なお、第7節は「Sancte」のSと「Johannes」のJ(Iの異字体)を組み合わせて「Sj=Si」とされたと考えられていますが、グイードの時代には6音音階が主流であり、「Si」が生まれたのは16世紀頃のようです。

17世紀半ば、イタリア人にとって発音のしづらい「Ut」は『支配者、主』を示す「Dominus」の始めの文字「Do」へと変更され、今日私達が当然のように使っている「ドレミファソラシ」が完成したのです。

ちなみにグイードは、ドレミを作っただけでなく、2本線で書かれていた楽譜を4本線に増やし、現在用いられている楽譜記譜法の原型を考案しました。
彼がいなければ、もしかしたら今もなお、音楽は口頭伝承が当たり前だったかもしれません。

さて、先程も書いたように、グイードはイタリアの修道僧。
使っていた言語もイタリア語。
ということで、「ドレミ」はイタリア語です。
では、なぜ世界の共通語というわけではないイタリア語の「ドレミ」が、このように日常的に使われるまで広まったのでしょうか。

なぜイタリア語が有名に?

音楽用語(=楽語)は、基本的にイタリア語です。
「楽語って???」という方でも、例えば『フォルテ』とか『クレッシェンド』などは聞いたことがあるのではないでしょうか。
これもイタリア語。
もちろん、ドイツの楽譜はドイツ語で書かれていたり、フランスの楽譜はフランス語だったりしますが、楽譜に書いてある記号・用語は、一般的にはイタリア語で書かれています。

「ドレミ」だけではなく、なぜ音楽用語までイタリア語が普通に使われているのかというと、音楽確立の歴史が関係あります。

教会で歌われていた「教会聖歌」が発展して、宗教曲として歌われるようになったのですが、法王・グレゴリオ1世が各地に散らばっていた歌の編纂(整理してまとめること)をした際、イタリア・ローマがキリスト教カトリックの総本山だということで、音楽用語をイタリア語で書いたのが始まりのようです。

時を経て、17世紀(バッハの時代)から、今でも有名な曲が多く作曲されるようになったのですが、当時の音楽家は宮廷音楽家や教会オルガニストといった、キリスト教に関する職に就いていたため、音楽用語のほとんどにイタリア語を用いた、と考えられています。
また、宮廷音楽界において、イタリア人が強大な力を持っていたことも関係していると思われます。

そのような背景があり、今日でも音楽の世界では、イタリア語が使われているのです。

国によって異なる呼び方

世界的に使われているイタリア語の「ドレミ」ですが、もちろん各国ごとの呼び方もあります。
クラシックの世界で、よく用いられるものをご紹介します。

日本

「ハ長調」や「ト短調」など、「カタカナ+長調・短調」という言葉を聞いたことがありませんか。
この「ハ」や「ト」が、日本語の「ドレミ」です。
日本音名と呼ばれます。

並び方は
ハ・ニ・ホ・ヘ・ト・イ・ロ

「あいうえお」ができる前の五十音「いろは」からつけられています。

半音上げたい時(♯をつけたい時)は、最初に「嬰(えい)」という字をつけます。
半音下げたい時(♭をつけたい時)は、最初に「変(へん)」という字をつけます。
「ド♯」であれば「嬰ハ」、「シ♭」であれば「変ロ」といった表記です。

ドイツ

ドイツ音名は、クラシックの世界で最もよく用いられます。
特に、オーケストラや吹奏楽では、「ドレミ」よりも使われています。(理由はのちほど)

並びは
C(ツェー)・D(デー)・E(エー)・F(エフ)・G(ゲー)・A(アー)・H(ハー)

半音上げたい時(♯をつけたい時)は、アルファベットのあとに「is」をつけます。
Cis(ツィス)・Dis(ディス)・Eis(エイス)・Fis(フィス)・Gis(ギス)・Ais(アイス)・His(ヒス)

半音下げたい時(♭をつけたい時)は、アルファベットのあとに「es」をつけます。
Ces(ツェス)・Des(デス)・Es(エス)・Fes(フェス)・Ges(ゲス)・As(アス)・B(ベー)

「E+es」が「Es」、「A+es」が「As」、また「H」は「B」になりますので、気をつけましょう。

アメリカ・イギリス

日本やドイツが、音名に五十音やアルファベットを用いているように、アメリカやイギリスなどの英語圏でもアルファベットを使用します。

並びは
C・D・E・F・G・A・B

半音上げたい時(♯をつけたい時)は、アルファベットのあとに「♯」をつけます。
半音下げたい時(♭をつけたい時)は、アルファベットのあとに「♭」をつけます。
「F♯(エフシャープ)」「E♭(イーフラット)」といった感じです。

一番読みやすいかもしれませんね。

世界のドレミ

もちろん、他の国にもその国の「ドレミ」があります。
フランスでは、グイードが考えたものとほぼ同じである「Ut・Ré・Mi・Fa・Sol・La・Si」が使われています。

インドやネパール、バングラデシュなどの、ヒンドゥー語の地域では「サ・レ・ガ・マ・パ・ダ・ニ」と言うそうです。

世界には、6000以上の言語があると言われていますので、私達が知りえない「ドレミ」が、きっとたくさんあるに違いありません。

音名は、なぜ「ハ」や「C」から始まるの?

日本、ドイツ、アメリカ・イギリスの音名を見てきましたが、気になることはありませんか?
日本は五十音の「イロハ」から、ドイツやアメリカはアルファベットの「ABC」から音名がつけられているわけですが、ではなぜ最初の音が「イ」でも「A」でもないのでしょうか。

これには、やはり音楽の歴史が関わってきます。
中世、ヨーロッパの音楽理論家が「この音より下の音は使わない」という最低音を決めました。
その音に「A」という名前をつけたのです。

その頃の音階は「教会旋法」と呼ばれる、今とは少し違うものだったのですが、当初は8つの旋法でした。
それがのちに12に増え、その後現在の長調・短調に変わっていくのですが、その過程で「C」の音から始まる音階が、たまたま理論の中心になった、というのが理由のようです。

綿密に考えられた理論から生まれた偶然が、世界に広まったんですね。

音名と階名の違い

これまで、イタリアの「ドレミ」、日本・ドイツ・アメリカ・イギリスそれぞれの音名について書いてきましたが、「ドレミ」と国ごとの呼び方には、決定的な違いがあります。
「日本音名」「ドイツ音名」などと表記してきたように、これらは「音名」と言います。
一方、「ドレミ」は「階名」です。

と言われても「何が違うの?」と思われると思います。
実際私は、中学校の音楽の授業で「これは音名。これは階名」と言われても、さっぱり意味がわかりませんでした。

簡単に言うと、「音名」は固定です。
「ハの音」と言われたら、ピアノの鍵盤で言うところの、2つ並んだ黒鍵の左下の白鍵です。
「C」も同じ。

「階名」は移動します。
「移動ド」という呼び方もするのですが、調によって「ド」の位置は動きます。

どういうことかと言うと、「ハ長調」は「ハ」の音から始まります。
「ト長調」は「ト」の音から始まります。
この「ハ」や「ト」は主音と呼ばれる音で、理論上「主音=ド」ですので、どちらも「ドレミファソラシ」という音階になるのです。

まだ、ちょっとわかりにくいでしょうか。

では、クラリネットを例にしてみます。
クラリネットで、「ド」と吹くと「変ロ」「B♭」の音が鳴ります。
長さの違う楽器だと「ド」と吹くと「イ」「A」の音が鳴ります。

それでも、クラリネット吹きにとっては「ド」なのです。
「ド」が移動する、というのは、そういうことです。

先程、ドイツ音名の項で「オーケストラや吹奏楽では、『ドレミ』よりも使われています」と書いたのは、このような理由があるからです。

「ド」が「C」の楽器、「B♭」の楽器、「F」の楽器、「E♭」の楽器…と、様々な楽器が集まっているオーケストラや吹奏楽で「では、皆さんでドの音を出して下さい。せーの!」とやったら…大惨事ですね。

ですので、固定であるドイツ音名を用いて、合奏は行われているのです。

ドレミをきっかけに

誰もの身近にあって、あまり意識したことのない「ドレミ」ですが、歴史を知ったり、各国の呼び方を知ったりすることで、知識が深まり、もっといろいろなことを知りたい、という気持ちも生まれてくるかと思います。

歌ったり、ピアノを弾いたり、クラリネットを吹いたりするだけではなく、直接関係ないように思えるちょっとしたことでも興味を持って、昔の人達に思いを馳せると、見え方・聞こえ方も変わってくるものです。

また、オーケストラや吹奏楽で演奏したり、クラシックを勉強する上で、ドイツ音名は必須とも言えますので、「ドレミ」と同じように使えるまで、繰り返し声に出して、必ず身につけましょう。


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